まずは資料とは何かを整理しておこう。
ここでは「自分が変更を加えない、静的なファイルやデータ」以外も含む。たとえば「自分が書いたメモ」も資料である。別の言い方をすれば、アウトライナーやテキストエディタで扱うような情報は全般的に資料と言えるであろう。
おそらくあなたのニュアンスとそぐわない。たしかに、資料というと通常は「他人によってつくられた」「変更を加えない」「また変更もされない」静的なものを指す事が多い。しかし資料の意味を引くと、行動を行うための元になるもの、といった意味がある。自分が書いたメモもこれに含められよう。
そう、資料という言葉が指すものは極めて広いのである。もちろん管理や運用も難しく、たとえばGTDはこのあたりを「資料」という入れ物に入れよ、程度しか取り扱っていない(詳しい扱い方を丸々放棄している)。PARAメソッドでもProjectやArchiveなど「活性の度合い」で分けるとか、フォルダは4層まで良いとかいった、シンプルな使い方しか記していない。
資料を上手く扱う営為を資料管理と呼ぶことにしよう。実は資料管理もまたタスク管理と同様、本質的に個人的なものだ。無論、この読み物で扱うには度が過ぎているため、これ以上は立ち入らない。
繋ぐとはどういうことか。
スムーズに行き来するということである。すなわち、タスク管理の最中(管理中や行動中)に必要な資料は漏れなく使いたいし、逆に資料管理の最中に生じたタスクも漏れなく扱いたい。
世の中はタスク管理だけしてればいいほど単純ではないし、資料管理だけしてればいいほど暇でもない。どちらも必要なのだ。つまり両者をいかにして行き来するかという話になってくる。
行き来とはどういうことか、例を示そう。
たとえば、あなたは一ヶ月以内に引っ越しをしなければならず、鋭意対応に追われているとしよう。日々のタスクリストを見ながら行動したり、終わったタスクにチェックを入れたり、そもそもタスクを洗い出すところから始めたり、といった行為を行うであろう。これらはタスク世界での営みと言える。
通常はこの営みだけでは完結はできない。おそらく「物件サイト」「契約書」「会社の住所変更手続き」といった資料を読むことになるだろうし、何なら契約書は書くものでもあろう。アナログな書類とは限らず、PDFファイルや画像だったり、テキストにコピペしたメモだったりするかもしれない。いずれにせよ、どこかで資料を読み書きする。このような行為は資料世界での営みだと言える。
さて、このような行き来はどのように行えば良いのだろうか。「いやその都度調べればいいじゃん」と思うだろうか。もちろん、それでも出来る者はいるだろうし、たいていの者はできよう。しかし、当たり前だが私たちの生活はこの引越しだけではない。また後で当時の事情が必要になってくることもあるだろう、特に引っ越しは旧物件まわりの解約や住所変更が多数発生するため、当時契約した契約書とその記載内容を読み返すことになる。これらを総括すると、つまり「やることはそれなりになる」「後から必要になる」の二大因子がある。何もせず立ち向かえる者はそうはいまい。あるいは、立ち向かわなければ毎回多大な忘迷怠が生じて、苦労することになる(この苦労を自覚していない者も少なくない)。
これを防ぐためにも、上手く行き来できるようになる必要があるのだ。もちろん困ってない人や、別に困ってもいいという人は気にしなくても良い。
さて、本題に入ろう。繋ぎ方として以下がある。
1 タスク管理と資料管理を独立させ、何とかして両者を行き来する
2 資料管理だけ行い、タスク管理は行わない
3 タスク管理のみ行い、資料管理は行わない
4 タスクの一機能として資料(ファイル)を持たせる
5 タスクの一属性として資料(へのリンク)を持たせる
6 資料世界でタスクも扱う
1 タスク管理と資料管理を独立させ、何とかして両者を行き来する
タスク管理も資料管理もどちらも行うが、ストイックに行き来のやり方は定めない、しかし何もしないわけではない、という案である。行き来については「タスク管理→資料管理(T2I)」と「資料管理→タスク管理(I2T)」の2パターンがあり、どちらか片方は考える必要がある。
T2Iの例を挙げよう。
「書類トレーをチェックする @2」というルーチンタスク。これは「2日に1回の頻度で行うルーチンタスク」であるが、その行動は書類トレーの確認であり、書類トレーという資料世界(の一部)にアクセスしている。
I2Tの例を挙げよう。
「A案件」というフォルダに、この案件に関する資料が詰まってるとしよう。ここにREADME.txtというファイルをつくり、使っているタスク管理ツールのURLを記載する。これは資料世界に「タスク世界に至るためのヒント(道)」を配置した、ということができる。あなたがタスク管理ツールの存在を忘れていても、READMEを開くことができれば、おそらくたどり着けるであろう。
T2Iの場合、重要なのは誘導である。
タスクの名前や詳細欄などで「どこどこにある何々を見る」といったような指示を書いておくのだ。もちろんデジタルの場合は、URやファイルパスなどを貼るなどすれば、手作業の手間も減る。
この原則をストイックに踏襲すれば、原理上は「"あなたが扱っているタスク" と関係のある資料」に行くことが保証されたも同然である。後はタスク管理側で、すべてのタスクが漏れなく回るよう管理すればいい。もちろんかんたんではないが。既に口うるさく言っているように、タスク管理は難しいのだ。ただ、それでも、資料世界へと誘導するタスクも扱うことで、資料世界の管理を軽減できる。シームレスになると言ってもいいだろう。
I2Tの場合、実は確たるやり方がまだない。
個人タスク管理であれば話は単純である。上述のREADMEもそうだが、要は「タスク管理世界への行き方を書いた資料」を扱えば良いだけである。
問題はプロジェクトタスク管理であろう。この場合、資料世界もタスク管理管理も「プロジェクトメンバー全員が見ているもの」と「自分だけが使っているもの」がある。計4つあるわけだ。ここでは特に「プロジェクトメンバー全員が見ている資料世界」からタスク管理世界に行くことを考えることになる――のだが、結論を言えば、十中八九成功しない。なぜならタスク管理も、資料管理も、そこへの行き方も人それぞれだからだ。ただでさえそうなのに、プロジェクトタスク管理では特定のタスク管理世界を全員に強いている(これだけでも無難に回すことは極めて難しい)。なのに、さらに資料世界との連携を考えるわけだ。断言しよう。通じることはまずない。仮に自分にとって完璧な「行き方」を整備したとしても、それは他人にとってはたいていゴミである。もちろん、それを皆に使ってもらうことも難しい。そして、もし万が一、百歩譲って、全員がその「行き方」に納得して運用できるとしても、その「行き方」を整備し続けるコストがある。これをストイックに払い続けなければ、行きつく先は形骸化だ。
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まとめ
T2IとI2Tがある。
T2Iは、誘導すれば良い。タスクの名前や詳細欄などに資料のアクセス方法を書く。
I2Tも、誘導すれば良い。「タスク管理へのアクセス方法を記載した資料」を扱えば良い。ただしn重の管理を敷く必要があるため、個人はまだしも、チーム(プロジェクトタスク管理)ではまず成立しない。
2 資料管理だけ行い、タスク管理は行わない
これは資料管理だけ行い、タスク管理は「しない」という案である。
別の言い方をすると、そのときそのときで資料を読み書きしておれば、必要なタスクは自然に想起されるだろう、だからタスクなんて管理しなくてもいいというわけである。
これが行えるかどうかは、インボクサーの適性と同様である。つまり頭の良さと委譲を行えるだけのサードパワーの両方が求められる。
しかしながら、領域を限定すれば、そこらの一般人でも活用できる。たとえば「生活のすべて」や「会社における仕事のすべて」をこれで回すのは難しくても、「今手配しているエアコン修理」や「会社の新人教育」くらいのタスクであれば、それらの資料を見るだけでコンテキストを思い出しきれるだろう。もちろん人次第なので、これらの例でもできない人はいよう(私もそうである)。
3 タスク管理のみ行い、資料管理は行わない
これはタスク管理だけ行い、資料管理はしないという案である。
別の言い方をすると、資料は必要に応じて「毎回探す」とでも言えよう。たとえば「必要になった時は毎回ググればいい」から特にブクマやダウンロードやノーティングはしない、というテクニックはよく知られているし、ある程度役職が高い者は「必要になった時に誰かに訊けばいい」と考えていることが多かろう(あまりに当たり前なので自覚がないこともある)。
これが行えるかどうかは、あなたが扱っている資料世界の難易度とその付き合い方による。大量のインプットを必要とする学生、学者や研究者、クリエイターなどは基本的に不可能であろう。そうではないサラリーマンや自営業、その他趣味や生活の範疇であれば一応は可能である。実際、これといった管理をせず、ただ適当に保存しているだけでやりくりしている者も多い。むしろ資料管理は整理術やらライフハックやらといった話でもあるから、よほど意識が高いか、物好きか、そういうことが求められる仕事をしているかでもしない限りは自然には身につかない。そういう意味で、一般人は基本的にこれになる。
ちなみに最も多いのが、ここでは取り上げないが「タスク管理も資料管理もしない」タイプだ。ざっくり2人に1人はそうであろう。そもそも管理とは専門的な技能に匹敵するほどの領域であり、一般人には縁のないものである。梅棹忠夫はこのような営為を知的生産と名付けたが、これは学者向け・研究者向けの概念であった。倉下によると、この知的生産から変遷してきたのが仕事術やライフハックだとのことである。
4 タスクの一機能として資料(ファイル)を持たせる
これはタスク管理ツール側の機能――特に添付ファイルなど「ツールが直接ファイルを持つ」タイプの機能を用いるという案である。
別の言い方をすると、資料管理を「タスク管理ツールのファイル機能」で行うと言える。メリットはタスク管理世界で資料管理も行うためシームレスであるところだ。しかし、専用の資料管理ツールやメソッドほど強力でも柔軟でもないため、本格的な資料管理はできない。あくまでもタスク管理の延長で、最低限の資料管理(というよりファイル管理)が行えるというだけの話である。
この案は、案3の次に「資料管理にかける手間が少ない」ものである。よって、案3ほど極端に管理しないやり方では追い付かないが、本格的な管理はしたくない、という人には向いておろう。ただし前提として、ファイル管理機能を持つタスク管理ツール(たいていはプロジェクトタスク管理用途の本格的なものである)を使っていなくてはならない。たとえばRedmine、Asana、ClickUpなどである。
実を言うと、本格的な管理をしたくない人がこのようなツールを使っている率は極めて低いため、この案4は現実的ではない。あってないようなものである。
5 タスクの一属性として資料(へのリンク)を持たせる
これはタスク管理ツール側の属性――特にタスクの名前や詳細属性に「資料へのリンク」を記載するという案である。
案4ではファイルを直接タスクに持たせていたが、この案ではそうではなく参照先だけを持たせる。また案1でも同じ発想していたが、案1では単に資料への所在を記していたのに対し、この案では「リンク」を示す。リンクとはハイパーリンク(クリックするとそのパスが開かれる)であり、「資料への所在がはっきりとしている」「クリックする程度の手間だけですぐにアクセスできる」といった特徴がある。
この案を採用するためには、リンク機能を持つタスク管理ツールが必要である。具体的には、URL やファイルパスを記載しただけで自動でハイパーリンク化してくれるものだ。最近のモダンなSaaSやアプリであればたいていは対応していよう。あるいはGitHub IssuesのようなBTSタイプが良い。
できればツール側で専用の属性が設けられているとありがたいが、現在そのようなツールはないであろう。よって、タスクの名前や詳細属性、あるいはコメントなどの機能に、資料へのリンクを記載することになろう。とはいえ、適当に書いておくだけでは見づらいため、できれば詳細属性に、フォーマットを決めて、目立つように書いておくのが好ましい。案4でも書いたがシームレスは重要である。「このタスクに関する資料が見たい」と思ったら、(デジタルなら)数秒くらいでアクセスできねばならない。というより、その素早さがあるからこそ案4や案5が光るのだ。
6 資料世界でタスクも扱う
資料世界のみを扱うが、案2とは違ってタスク管理も行うという案である。ただしタスク管理世界ではなく資料世界で行う。
資料世界自体が奥が深いため、この案も色々なやり方が存在する。アウトライナーやノートツールで資料世界(あるいはその一部)を構築している場合は、そこでタスクリストを書いたりするであろう。ファイル管理を重視している者であれば、task.txtのようなファイルをつくるであろう。アナログの場合は、仕事で扱っている手帳の一部をタスクページとして使ったりするだろう。より進んだ概念として、文芸的タスク管理なるものも開拓され始めている。
いずれにせよ、この案はとにかくタスク管理を行いたくない人におすすめできる。というより、そのような人で、資料管理に精を出している人は、誰に言われずともこの案を適用しておろう。それくらいには、この案は極めて自然な営みなのである。もちろん、資料の世界で(それなりに複雑で面倒くさい)タスクを管理しようというのだから、タスク管理のポテンシャルは極めて乏しい。基本的に何から何まで言語化して、リストアップして、細かく更新して、といった泥臭いライティングが必要である。そういう意味では、この案は、ライティングが苦になるかどうかが争点とも言えよう。苦にならないのであれば、おそらく採用できる。
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