そもそもは盤外戦を行って「扱うタスクや発生するタスクの総量」を減らすべきであろう。
最良のソリューションはソリューションをつくらないことだ、という格言もある。何かをつくったり整えたりすることは本質的に手間がかかるし、「そうしなければならないほどの規模」そのものを何とかすることができなくなる。まずは前提を疑い、あなたが相手にしているものの規模自体を小さくすることを重視するべきなのだ。
が、これは理想論でしかなく、現実はたいていそんなことは(さほど)できない。というわけで、この話は置いといて本題に入るとしよう。
もう一つ、「そもそもつくるのが難しい」という前提も話しておくべきだろう。
自動化には「自動化の対象、方針、方法を決める」「それを実装する」という2つのステップが要る。後者については、事実上ソフトウェアの力が必要である。ツールがサポートするAPIを用いるか、すべて自分で自製するしかない。いわゆるプログラミングだ。世の中にはローコードだのノーコードだの、AIにコードを生成させるだの、楽をする潮流が出始めているが、まだタスク管理界隈では戦力にならない。
よって、自動化したいのなら、それはすなわちプログラミングスキルもマストである。ここではプログラミング周りの話はしない。あくまで前者(自動化の対象、方針、方法)だけ取り上げる。
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ちなみに、プログラミングのハードルは理不尽に高くはない。
たとえば倉下忠憲のらてつはエンジニアではないが、タスク管理ツールを自製している。倉下はプレーンテキストタスク管理をベースに、テキストファイルを加工・抽出する方向に傾注し、のらてつは画面やフォームなどブラウザで使うツールに傾注しているようである。どうアプローチするのが良いかは人それぞれだが、向き不向きがあるため、向いている方で良い。もちろん不向きがないなら両方使っても良い。が、おそらく手段の目的化になるであろう(プログラミング時代は楽しいため満足感という意味では悪くないのだが)。
また、タスク管理からは逸れるが、執筆においてエンジニアのツールを使う例もある。
倉下忠憲もVSCodeのnote記事を書いている
藤井太洋がVSCodeで執筆をしている
そう、エンジニアの専売特許であったプログラミングは、もはやそうでない者も手を出せるほどにハードルが下がってきている(それでも一朝一夕には行かないが)。
何よりもまずは転記や複製の自動化であろう。
最初に自動化するべきはルーチンタスクであろう。たとえば毎日行うタスクが7個ある場合、手作業だと毎日7回も新規操作を行わなければならない。たとえば手帳でルーチンタスクも扱おうとした場合、毎日毎日何百文字と転記する羽目になるだろう。これが、ツールの力を使うと、(事前に「これは毎日の頻度で行うタスクですよ」と設定をしておけば)この手間がほぼゼロになる。
リストの並び替えや項目の移動についても同様だ。アナログだといちいち消して書き直して、を繰り返すことになり、うんざりするであろう。デジタルならばコピペはかんたんにできる。改めて言うまでもなく、デジタルツール最大の恩恵である。
要するにデジタルの機能を使えば、本来手作業で愚直に書き写していたものが、ゼロコストまたは(コピペ操作で済むような)低コストで済むようになる。これは、デジタルにより転記操作が自動化されていると言える。
タスクの操作、特に状態属性が絡むような更新作業(開始する前にラベルをつけたい、終了した後に移動させたい等)も自動化したいかもしれない。
主にプロジェクトタスク管理の文脈だが、自動更新が知られている。
時限削除という概念もある。これはn日間音沙汰がなかったものを削除する、というものだ。タスク管理では「一月以上経過したログを消す」とか「開始日から一週間以上経ったのに一度も操作されていない(スキップされ続けている)」とかいった使い方ができるであろう。
エントランス・ウォッチングも重宝するであろう。
まずエントランスとは「タスク管理ツールの入口」または「そこと接しているポイント」を指す。
たとえばあなたが以下の管理をしているとしよう。
daily.txtというデイリータスクリストを使っている
思いついたメモはmemo.txtに放り込んでいる
memo.txtは毎朝一度読み返し、必要ならdaily.txtに転記する(タスクにする)
その他のタスク管理はプライベート用、仕事用含めて複数使っているもの
このとき、エントランスはdaily.txtとmemo.txtである。前者は入口そのものであるし、後者は入口と直接繋がっている(他を経由せず直接情報を流している)接点だ。あなたのタスク管理は、この2つが入口となっていると言える。であるならば、ここで「もしこんなタスクが来たら、こんな処理をする」のような処理を差し込むことによって、処理の自動化ができないだろうか。つまり監視(ウォッチ)を行い、その様子に応じた処理を自動で行うように仕込む。
小難しく書いているが、難しいものではない。
特に身近なのがメールのフィルタリングであろう。スパムフィルターは馴染み深いはずだ(あるいはメールをほとんど使わない今のデジタルネイティブ達はもはや存在を知らないかもしれないが、Gmailを使っているならその恩恵は確実に受けている)。同様のことを、タスク管理でも行うというだけだ。
要するに判断の自動化である。
エントランスにやってきたタスクが、もし~~であるならば、~~をする。
これを自動化するのである。
「~~をする」は、基本的に仕分けになるであろう。特定の場所に転送(転記)するか、あるいはゴミ箱に捨てる(別にゴミ箱エリアに記載せずともそのまま消しても良い)。
通常、このような判断はあなた自身が行うわけだが、これを自動化すれば、その分判断の量が減る。手作業の労力も減らせるが、それ以上に注意資源を節約できるのが大きい。注意資源を舐めてはいけない。たとえば部下を持てるほどの立場の者は、軽微な判断であれば部下に任せるであろう。そうすることで、自分でより本質的な仕事に集中できる。というより、そうしない限りはできない。優秀な者でも注意資源には限りがあり、この限界はすぐに訪れてくる。自身で判断する回数をいかにして減らすか――これは運動不足の解消と同レベルで重要だと言っても過言ではないのだ。そして、タスク管理レベルで自動化することは、部下のいない人にもその機会を与える。
と、これも小難しく書いたが、別に難しくない。メールの例を思い出してほしい。すべてのメールを全部一から判断するのではなく、可能な限りフィルタリングをつくって事前に仕分けた方が楽であろう。それと同じだ。
上記の例を拝借して、具体例を挙げよう。
例:終了したタスクを自動的に隔離する
1 終了したタスク(の行)には先頭にx をつける
2 先頭にx のついたタスクを(現在日).txtに移動するプログラム
3 2のプログラムを1日1回、23:55に実行する仕組み
この3つの仕組みがあれば、終了したタスクを転記する手間がなくなる。3の仕組みを「常時監視しておき、x のついた行を検出したら即座に2を実行する」とすればリアルタイムな反映が可能だ。
例:重要なタスクは自動的に「1時間後のリマインダー」を設定する
1 重要なタスクをdaily.txtやmemo.txtに書く際、必ず!をつける
2 !のついたタスク(の行)を読み込み、愛用のカレンダーと連携して自動的に現在日時の1時間後にリマインダーを設定するプログラム
3 daily.txtとmemo.txtを常時監視し、2を実行する仕組み
この3つの仕組みがあれば、あなたは!つきのタスクを書き込むだけで、自動的にリマインダーも登録される。たとえそのタスクについて忘れていても、おそらく1時間後にリマインドされて思い出せるはずだ。
例:込み入ってきたときに可愛いペットの画像を出す
1 daily.txtを監視し、保存されるたびに「行数が何行増減したか」を検出する仕組み
2 1に「15行以上増えたら、ペットの画像を出す」という処理を入れる
このような仕組みがあると、15行以上増えた(おそらく急激に忙しくなってタスクを追加しまくったりその場で検討したりしている)ときにペット画像が表示される。「あぁ……」と癒やしになり、一息つく契機になってくれるはずだ。
いずれにせよ、プログラミングが必要でありかんたんではないが、だからこそ、実現できたときの効果は大きい。そもそも、このような自動化を行うことからして、ある種プログラミング的である(この3つの仕組みがあれば……という言い方をしているが、この言い方がどうにも手続き的でむずむずする人もいよう。このような粒度で細かく言語化し、規定するのが、まさにプログラミングの世界だ)。
タスクの操作ではなく、タスクの遂行(に必要な作業)を自動化することもできる。
むしろ自動化と聞いて通常思い浮かべるのはこちらであろう。
たとえば気になるTwitterアカウントが10個あって、毎日ブックマークから見に行くのは大変であるが、Twitterのフォローの仕組みを使えばタイムラインに集約されて表示される。これは「気になるTwitterアカウントを読む」というタスクにかかる時間を、閲覧先の自動化(閲覧対象たるツイートを一箇所に集めている)により短縮している。「読む」というタスクの管理を自動化しているわけではないが、読むというタスクそのものにかかる時間を、作業の自動化により削減している。
と、あえて言葉にするまでもないかもしれないが、要は効率化である。
効率化を行うと、タスク管理で扱うタスクそのもののサイズが小さくなる。場合によってはなくなるであろう。結果的に楽できるようになる。自動化と同じ恩恵を享受できるのだ。
この作業効率化については、タスク管理の範疇外であるためこれ以上は取り上げない。
上述したようにプログラミングが求められることも多いが、案外既存のツールだけで何とかなったりする。Twitterでフォローする、リストをつくる程度であれば、割と誰でもできよう。知っている人からすれば、教えるまでもない当たり前のことだ。そして、そのような「知っている人から見たら当たり前で」「でも無いよりははるかに便利な」ツールやその機能というものは、たくさん存在する。たくさん、だ。だからこそ、私も含め一部の者はツールに傾注し、あれこれ試したり考察したりしている。Twitterのフォローを知らない時から知った時に変わるような、そんな大きな効率化も、珍しくない。
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